「相続放棄できますか?」と,最近,続けてご相談を受けましたので,参考までに。
● 「相続放棄」の基礎知識
相続放棄をすると,最初から相続人とならなかったことになり,亡くなられた方(=被相続人)のプラスの財産(不動産,預貯金など)もマイナスの財産(借金)も相続しません。
そこで,マイナスの財産がプラスの財産よりも大きい場合,相続放棄の手続きをすることによって,借金を相続しないという選択をすることができます。
しかし,相続放棄は,期間の制限(相続開始を知ってから3ヶ月以内,民法915条)のほか,相続財産を処分してしまった場合は,単純承認をしたものとみなされ(民法921条1号),相続放棄をすることができなくなります。
●預貯金を「葬儀費用」に充ててしまった場合
預貯金は相続財産であるので,葬儀費用に充ててしまった場合,「相続財産の処分」に当たり,相続放棄ができなくなる・・・とも考えられます。
この点,葬儀費用を相続財産から支払った場合、身分相応の、当然営まれるべき程度の葬儀費用であれば、単純承認には当たらないとした裁判例があります(大阪高裁平成14年7月3日決定)。
葬儀費用を預貯金などの相続財産から充てても,相続放棄することができるということにはなりますが,「相応の」と限定があるので,気をつける必要があります。
● 「未支給年金」を受給してしまった場合
亡くなった方が公的年金の支給を受けていた場合で,年金を受けている方が亡くなったときにまだ受け取っていない年金や、亡くなった日より後に振込みされた年金のうち亡くなった月分までの年金については、「未支給年金」として,遺族の方が受給できます。
亡くなった方の年金の未支給分を受給するので相続財産となりそうですが,「相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたもの」として生計を同一にしていた遺族の固有の権利であって相続財産ではありません(最高裁平成7年11月7日判決参照)。
未支給年金を受給しても,「相続財産の処分」に当たらず,相続放棄はできます。