伯父が借金をしたまま死亡し,相続人である父親が相続放棄をしないまま死亡してしまい,突然,伯父の借金を相続しているとして債権者から借金の返済を迫られた・・・。
こんな場合,相続放棄ができる期間となる「3カ月」の起算点はいつなのか?
最高裁判所令和元年8月9日に,初めて判断がされました。
まず,相続放棄は,自己のために相続の開始があったことを知った時から「3カ月」以内にしなければならないとされています(民法915条)。
しかし,相続人が相続放棄をする前に死亡してしまった場合(二次相続),その相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する(民法916条)と規定されています。
最高裁判所の事例は,連帯保証人である伯父が死亡し(平成24年6月),本来ならば伯父の妻子が相続人であったところ,伯父の妻子は相続放棄(平成24年9月)をした結果,弟であった父が相続人となってしまい,その父が相続放棄をしないまま死亡(平成24年10月)してしまって3年後(平成27年11月),債権者からの請求で,初めて,自分が伯父の債務の相続人であると知り,その3カ月以内(平成28年2月)に相続放棄をしたというものです。
これまで起算点は,「相続人が死亡した時」が有力な解釈とされており,これによれば,子は父が死亡(平成24年10月)してから3カ月以内に伯父の債務の相続放棄をしなければならなかったことになります。
しかし,最高裁判所は,
民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。
と判断しました。
自分が伯父の債務を相続することになることを知った時(平成27年11月)から3カ月以内にした相続放棄は有効としました。
相続が発生した場合,プラスの財産のみならずマイナスの債務も小計してしまうことになるため,債務の有無や金額を把握する必要がありますが,分からないことも多く,今回のように,先順位の相続人が相続放棄をしてしまって,次順位の相続人が相続することになった場合はなおさらです。
今回の最高裁判例によって,自分が知らない間に負債を相続してしまっていたという不測の事態を回避できることに,相続人にとってはありがたい判断であったと思います。