① 父親が死亡した際,相続人が,母親,子A及び子Bであった場合。
法定相続分は母親=1/2,子A=1/4,子B=1/4
母親が自分の相続分を子Aに譲渡したことにより,父親の遺産(1000万円)の遺産分割は,子A750万円(母親の相続分相当額500万円+自己の相続分相当額250万円),子Bは250万円(自己の相続分相当額)となった。
② 母親が自分の遺産はすべて子Aに相続させる旨の遺言書を作成。
③ 母親が死亡したが,遺産は預金50万円,負債50万円
母親の死後,子Bは,父親の遺産分割の際,母親の子Aに対する相続分譲渡が,遺留分算定の基礎となる財産に算入すべき贈与(民法1044条,903条1項)に該当するとして,遺留分減殺請求できるかという問題につき,平成30年10月19日,最高裁判決で相続分の譲渡も民法903条1項の「贈与」に該当するとの判断がなされました。
上記の事例の場合,母親の死後,子Bは子Aに対し,父親の相続の際の母親の相続分500万円につき,子Bの遺留分(1/4)である125万円を請求できることになります。
子Aは,
① 母親からの相続分の譲渡による相続財産の持分の移転は,遺産分割が終了するまでの暫定的なものであり,最終的に遺産分割が確定すれば,相続分の譲受人は相続開始時に翻って,父親から直接財産を取得したことになるから(民法909条本文),母親から子Aに「贈与」があったことにならない,
② 相続分の譲渡は,プラスの財産ではなくマイナスの財産も譲渡されるので必ずしも経済的利益があるというものではない
と争いました。
しかし,最高裁は,
① 909条本文の規定は,「贈与」に該当すると判断する妨げにならない,
② プラスの財産とマイナスの財産を考慮して算定した相続分が財産的価値があるといえない場合を除き,相続分の譲渡は,民法903条1項の「贈与」に当たる
としました。
最高裁判決の事例は,父親の遺産分割は,調停手続でなされたものですが,相続分の無償譲渡をしてしまった場合,後に,遺留分減殺請求されて紛争が起こってしまうことを意識しておく必要があることになります。