預金口座を開設しようと銀行で手続する際に,「反社会的勢力に該当しないことを表明する書面」に署名を求められることが一般的になっています。
なんで,いちいち,こんな書面を書かされるんだろう・・・と思いますよね。
これは,預金取引約款に,万が一,口座開設申込時にした表明・確約したにもかかわらず,反社会的勢力であったと判明した場合は口座解約ができるという暴力団排除条項を規定することにより,速やかに反社会的勢力との関係解消をすることができるようにするためです。
企業における暴力団排除の動きは,平成19年に「企業が反射社会的勢力による被害を防止するための指針」(犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)が示されて活発化しました。
金融機関においては,平成20年に金融庁が反社会的勢力による被害防止に係る監督指針の改正を行い,「反社会的勢力とは一切の関係を持たず,反社会的勢力であると知らずに関係を有してしまった場合に速やかに関係を解消できるよう,取引約款に暴力団排除条項を導入するなどの取り組みを行っているか否か」をチェックすることになり,各金融機関が,預金取引約款に暴力団排除条項を導入することになりました。
暴力団排除条項のある取引約款の規定された後に,新規に預金口座を開設した場合は,約款を承知で口座を開設したのであるから解約されても仕方がないですが,既に開設されていた口座も遡って暴力団排除条項の適用があるか否かが問題となり,訴訟となっていました。
今般,最高裁判所が,暴力団排除条項を遡って適用した口座解約は有効であるとした福岡高等裁判所平成28年10月4日判決について,暴力団員側の上告を退け,銀行の勝訴が確定しました。
福岡高等裁判所の判決で,暴力団排除条項を遡って適用し口座解約は有効と判断した理由は,つぎのとおりです。
① 目的が正当であり,目的を達成するため解約を求めることに合理性がある
② 取引約款を社会の変化に応じて変更する必要性が生じた場合は合理的範囲内で変更されることも当然予定されていること
③ 遡及適用されても不利益が限定的であり,暴力団等から脱退すれば不利益を回避できること
暴力団排除という観点から参考になるとともに,改正された民法548条の4で規定されている,定型約款を変更する際に,個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる場合の具体例として,参考になると思います。