遺産分割において,居宅(誰も住んでいない),山林,農地などの不動産があるものの,相続人がいずれも,遠方で暮らしているため,誰も不動産の取得を希望しない・・・と言われて苦労することがあります。
遺言で,親が相続人3人(A,B,C)のうちA1人に,相続財産(不動産,現金,預貯金)のうち不動産を相続させる旨の遺言をしたが,Aが不動産所在地に住んでいないことから不動産はいらないとして「遺言の利益の放棄」したいと言った場合,遺産分割はどうなるのか?が,問題になった事例があります(東京高等裁判所決定平成21年12月18日)。
相続人(子)=A,B,C
遺産=① 現金・貯金 合計約3500万円
② 不動産(居宅・農地) 800万円
遺言=不動産(居宅・農地)を全てAに相続させる
「遺贈」の場合は,「遺言者の死亡後,いつでも,遺贈の放棄をすることができる。」民法986条1項の規定と同様,「相続」であっても,遺言の利益の放棄ができるかについては,学説で争いがあるとのことです。
上記事例の原審決定は,Aに相続させるとした不動産も遺産分割の対象としつつ,親が不動産をAに相続させるとの意志を重視して,次のように判断しました。
A=不動産(800万円)+現金・貯金633万円(遺産総額約4300万円の1/3)
B=現金・貯金1433万円(遺産総額約4300万円の1/3)
C=現金・貯金1443万円(遺産総額約4300万円の1/3)
これに対し,抗告審(高等裁判所)では,Aは,「相続させる」遺言によって相続開始時に不動産を取得しているので,遺言の利益の放棄はできず,遺産分割の対象とならない,また,Aは不動産(居宅・農地)の所在地に住んでおらず,売却も難しいことから,不動産の相続は特別受益(民法903条)にも該当しないとして,次のように判断をしました。
A=現金・貯金1169万円(約3500万円の1/3)+不動産(800万円)
B=現金・貯金1169万円(約3500万円の1/3)
C=現金・貯金1169万円(約3500万円の1/3)