最高裁判所で,「預貯金債権が遺産分割の対象である。」との決定がありました。
従前の判例を変更するもので,遺産分割の実務に大きな影響を与える判断です。
○ 事例(簡略にしています)
被相続人:A
相続人:甲・乙の2人。
遺産:不動産 258万円 預貯金合計 4000万円
Aから,生前に,乙の母が5500万円の贈与を受けており,乙の特別受益にあたる。
預貯金を甲と乙との間で,遺産分割の対象に含める合意が出来ていなかった。
○ 審判(大阪高等裁判所平成27年3月24日)
これまでの判例に従い,預貯金債権は「可分債権」にあたり,相続開始と同時に当然に相続人が相続分に応じて分割取得し,乙は不動産を取得すべきと判断していました,
法定相続分1/2ずつとすると,
甲=預貯金2000万円+不動産
乙=預貯金2000万円+特別受益分5500万円
とかなり不公平な結果となってしまいます。
○ 最高裁判所決定(平成28年12月19日)
共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期預貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当であるとして,これまでの判例を変更しました。
更に審理を尽くす必要があるとして,高裁に差されましたが,
甲=預貯金4000万円+不動産
乙=特別受益分5500万円
となるはずです。
最高裁判所の判断は,これまでの当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とする運用に沿うものですが,これからは,当事者の同意がなくても,預貯金債権を遺産分轄の対象となることから,実質的公平を図りつつ具体的相続分に応じた分割ができることになります。
しかし一方で,被相続人が亡くなった直後,入院費・葬儀費用の支払いや,被相続人の扶養を受けていた配偶者など,預貯金を遺産分割前に引き出す必要がある場合,従前は,銀行は法定相続分に相当する額まで払戻しに応じることもありましたが,今後は,共同相続人の全員の同意を得ないと引き出しに応じないということになります。
共同相続人の協力が得られれば問題ないですが,共同相続人の居場所が分からず連絡が取れなかい場合や同意を得られない場合,困ったことになります。
これについては,補足意見で,遺産分割の審判事件を本案とする保全処分として,例えば,特定の共同相続人の急迫の危険を防止するために,相続財産の中の特定の預貯金債権を当該共同相続人に仮に取得する仮処分(仮分割の仮処分。家事事件手続法200条2項)等を活用することが考えられると言及されています。
この点については,民法(相続法)の改正についての審議会でも検討されているところのようですが,当面は仮処分で対応せざるを得ないということになりそうです。